パターの名手
名プレーヤーのパッティングスタイルを思い浮かべると、使用していたパターまでもが懐かしく思い出されます。
道具が自由に選べるほど豊富ではなかった時代、プロゴルファーは1本のパターを信頼して使い続け、ともに数々の栄光をつかみ取りました。
ジャック・ニクラウスのパッティングスタイルは独特です。
右肩を下げた猫背な構えから、右ひじを平行に動かすようにストロークします。
彼はプロ入り早々に「賭けパットの帝王」と呼ばれたジョージ・ローから「毎週続くツアーではヘッドが効いたパターのほうが、感覚を保てる」とアドバイスされ、ロー自身がデザインしたショートブレードのL字型「スポーツマン」を長年使い続けました。
当時ナンバーワンのニクラウスから信頼されたモデルだけに、「スポーツマン」はクラシックパターの中でももっとも高値が付けられ、来日した時には盗難事件にも合っています。
1970年代の中頃のジョニー・ミラーは「神がかり的なゴルフ」で連勝したことで有名です。タップ式で打つ彼のパッティングは、グリーンに乗ればどこから でも入るのではといわれたほどでした。 そんなミラーの右腕はプレアクシネット社製の「Bulls Eye」と刻印されたキャッシュインタイプと呼ばれるタイプでした。黄銅製のヘッドは打球感が柔らかく、芯で打ちやすいことからビギナーにも愛用されたモ デルでした。
パーティボーイとまでいわれた遊び人レイ・フロイドが、1976年のマスターズで最高のゴルフを演じて優勝し「レイの安定したパッティングはツアーでも最 高の部類に入る」と評され彼のゴルフ人生に転機を授けてくれたパターは「ゼブラ」 シマウマの縞模様のようなラインとフェースバランスの薄いマレットタイプのヘッドに長いシャフトを付け、アップライトにアドレスしたフロイド。
その構えはまるで歩くのと同じ、どこにも無理がない自然な姿勢でした、垂直に近いストローク軌道はフェースバランスの機能を引き出すには最適だったといえます。
パッティングでは、ボールの真横をパターヘッドの重心(フェース上の重心)でヒットした時、転がりがもっともよくなります。要するにエネルギーのロスが最小限に抑えられるわけで、重心よりも下や上に外すと転がりは確実に悪くなってしまうのです。
ただし、下と上とでは多少違いがあります。同じ外すとしても、重心より上に外して打つとロフトが多くなる方向なので、転がりは極端に悪くなります。
これに比べて下でヒットした場合、ロフトが立つ方向となり、重心でヒットしたときよりは転がりは悪くなりますが、上に外して打つよりは影響は少なくなります。
ではどうしたら常に重心点でヒットできるかですが、それはインパクトでどのくらいヘッドを浮かせるかで決まってきます。ボールの重心点の真横は地面から約 21ミリの高さになります。一方、インパクトゾーンではだれでもパターのソールを芝面から5ミリ程度浮かすので、重心がソールから16〜17ミリのところ にあればジャストミートできる計算になります。
初期のピン・アンサーなどはピタリ17ミリ前後で、これが転がりがいいといわれる理由となっていたのだと思います。
一般的なモデルは14〜15ミリのモデルがほとんどでした。
もちろん、ソールを6〜7ミリ浮かせればいいのですが、どうしても重心より上に当たります。
プロたちはこのことを経験的に知っていました。
極端にアッパーブローに打つプロが多かったのもこの時代です。アッパーブローに打ちことでインパクトではソールが浮く量が自然と多くなり、低重心でもジャストミートしやすかったのです。
青木功プロは極端にトウを浮かせていました。そうすれば重心が低いパターでも、重心点が上がりボールの真横をヒットできます。だから「ダフっても転がりがいい」といわれたのです。
ヒール側はダフっているように見えても、トウ側を浮かせているのでボールの芯とパターの芯が一致しているわけで、経験的に身につけた技としかいいようがありません。
パターは、形状的にいえばピン・アンサーに代表されるトウ&ヒールバランス型が主流でした。
しかし最近はマレット型も根強い人気があります。
マレット型は一般にフェースの高さ自体低めで、ネックのないモデルがほとんどです。
それだけ重心が低く、重心高さの項で触れたことからいえば難しいはずですが、使用プレーヤーが増えているのは、重心深度に理由があります。
パターにもロフトがあるため、重心深度が深ければフェース面上のスウィートスポットの位置は高めになるので、フェースの高さが低いわりにはスポットでヒットしやすくなるのです。 また深度が深いと慣性モーメントも大きくなり、ミスの度合いも軽減されます。
このあたりが、マレット型の根強い人気につながっているのです。また、重心深度が深いとフォローを出しやすいというメリットがあります。
これは深度が深いほどダウンで重心がシャフトの延長上に来ようとする力が大きくなるためですが、その結果、自然とヘッドがスムーズに出やすくなる。そのあたりもマレット型のメリットといえるのです。
パターのヘッドは、80年代の半ば頃まではほとんどが310グラム前後でした。ところが90年代では340〜350グラム程度になり、最近はさらにヘッド 重量は重くなってきました、重いほうが慣性モーメントは大きくなるし、転がりもよくなることをみんなが経験的にわかってきたことによるものです。
単純にいえば、ヘッドを重くして軽いカーボンシャフトをつけると転がりだけはよくなります。しかし、シャフトを軽くするとダウンスウィングで意図に反して加速してしまったりしてストロークが不安定になります。
そのためシャフト重量はそのままにヘッドだけ重くなってきたのですが、最近は200gのシャフトもありいろいろな組み合わせが可能になりました。重くすれ ば転がりがよくなるので小さなストロークで打てますし、その分安定性も高くなります。特にスピードの速いグリーンなどではそのメリットが大きいのです。