9月1日2019年
「AIG全英女子オープン」で
日本人42年ぶりのメジャー制覇を遂げた渋野日向子は
帰国直後の「北海道MEIJIカップ」に参戦しました。
日本中のゴルフファンが注目の中、
最終日のプレーは5バーディ、
3ボギー1ダブルボギーの「72」とし、
通算4アンダーの13位で終え、
「全英制覇」直後の凱旋優勝とはなりませんでした。
4番でダブルボギーを喫するなど前半で2つ落とします。
得意の後半は12番のパー5で3打目を2mにつけて
バーディを奪いますが、16番でグリーン手前ラフからの
アプローチを2.5mショートさせてボギーとします。
17番のパー3はピン右1mにつけバーディを決めるなど
終盤の強さは示し、18番パー5でも2mを沈めて、
サンデーバックナインの上がり2ホールを
連続バーディでホールアウトしました。
大会の最終日は、昨年比2725人増となる
7631人のギャラリーが来場。
3日間トータルで1万6407人となり、
会場を2006年から札幌国際CCに移してからの
最多ギャラリー数を更新と「シブノフィーバー」が
数字として現れました。
渋野が通算4アンダーの13位で終えたほか、
北海道出身の小祝さくらが優勝を争い、
地元で健闘した事も多くのギャラリーが
会場に足を運ぶことになったのでしょう。
疲労と戦いながらも上位で3日間を完走した渋野は
「全英で優勝してから、こんなにたくさんの方が
来てくれるとは思っていなかった。
みなさんの応援は本当に力になるし、
今までとは違うムードだった。
この中でプレーするのは本当に楽しいことだと
改めて思った」と、初めての海外からの転戦で、
最悪の体調の中でも「シンデレラスマイル」を
絶やすことはありませんでした。
渋野は更なる注目を集め、休むことなく出場した
「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」でも、
優勝争いに加わります。
1打差を追って最終日をスタートした渋野は、
前半に3つ伸ばし、首位を捕らえて
サンデーバックナインへ。
14番で1.5m、15番で7mのバーディパットを決めますが、
首位タイで迎えた最終18番を3パットボギーとして
プレーオフに参加できず3位タイと惜敗しました。
2週前「AIG全英女子オープン」を制してから
2戦目での国内優勝とはなりませんでしたが
大きな注目の中、十分に期待に応えたといえるでしょう。
プレーオフは穴井詩がイ・ミニョンを
1ホール目で振り切り優勝しましたが、
渋野は「何が何だか、わからなかった。
最後にぜんぶ台無しにした」と、
溢れ出る悔しさを必死に抑えている様でした。
「シブノフィーバー」に沸く軽井沢で、
渋野はそんなフィナーレを予感させる舞台を整えました。
1打差2位で出た最終組からジワジワと追い上げ、
首位に並んでハーフターン。
18番のティーグラウンドでスコアボードで
順位を確認しますが
「セカンドまでは緊張もなかったし良かった」と、
張り詰める空気の中でピン右5mにパーオン成功。
ウィニングパットを見事に決め切った「全英」を、
彷彿とさせるシナリオを期待する大勢のギャラリーが、
グリーンを取り囲むことになりました。
入れば優勝のパットを前に
「手が震えていた。今までの優勝争いで、
一番手が動かなかった、オーバーだけはさせるつもりで」と
強気に打ちましたが、ボールはカップ横を
すり抜けて2mオーバー。仕切り直した返しも、
集中が途切れたように左に外れ、
観客のため息だけが響きました。
「返しも手はあんまり動かなかったですね。
最後は、カップにかすりもしなかった。
本当に情けない」と振り返っていますが、
明らかな下りのファーストパットは、
優勝を決めた「全英オープン」の最終ホールの
様にはいきませんでした。
しかし帰国2連戦で、ファンや異常ともいえる
マスコミに対するの対応もあり、
疲労もピークの中での優勝争いです。
プレーオフの選択肢はなかったのかもしれません。
全英の時に「プレーオフはいやだから」と、
攻めきったゴルフが、
これからも渋野の信条なのかもしれません。
人前では悔しさを押し殺し、気丈に振舞っていましたが、
クラブハウスに戻ると1人隠れ、涙をぬぐったといいます。
「頑張って笑おうとしましたけど。
ちょっと涙が出ちゃいましたね。
でも、人に見せるものでもないですし」と、
記者会見場では「最後の緊張は何で、ですかね。
自分でも理由はわからない。
プレッシャーがあったわけではない。
でも、ここ最近では、一番悔しい」と吐露しつつ
「最後のボギーの仕方がダメですね。情けねー」と、
最後は周囲を笑わせていました。
最終日のパーオン率は50%ながら、
前半アウトは9パット(計23パット)に収めてノーボギー。
苦しい状況でも、急成長中のパットで必死にスコアを作り、
賞金総額は目標とする1億円に迫る8479万円に積み上げました。
「経験だけで、終わらせちゃいけない。
ひたすら練習するしかない。
悔しさはきっと次につながる」と、気丈に答えていますが、
地元の岡山県で4週ぶりのオフを過ごし、
「ニトリレディス」に備えるということです。
「家でもゆっくりしたい。県外にいって、
外の空気を吸うのもいい。ソフトボールもしたい。
とりあえず、ゴルフのことを忘れたい」と、
多くの人に笑顔を届けながら、必死に走り続けた3週間。
また1つ強くなるための経験を持ち帰り、
体をほんの少しだけ休ませる時間を
大切にして欲しいですが、
ワイドショーに追い回されるのは間違いありません。
日本の女子ツアーは男子ツアーと違い、
賞金面において世界と極端に差があるとはいえません。
米LPGAツアーは、33試合の開催、
賞金総額は7055万ドル(77億円)です。
1試合平均で約2億3500万円ですが、
日本女子ツアーは39試合、39億4500万円ということで、
1試合平均にすると約1億100万円で、
米ツアーの47%となります。
男子の場合、米ツア―の賞金総額366億円に対して、
日本は43億円と圧倒的な差があります。
私が韓国でプロゴルファーの育成をしていた頃の
韓国の賞金額は、男女とも日本の10分の1程度の賞金額でした。
男子は徴兵制があり海外に出ることは難しい時代でしたが、
申ジエの様に日本をステップにアメリカを目指したのです。
現在の日本女子ツアーは、日本にいながら
世界と切磋琢磨が出来ないというわけではありません、
また過酷な移動にあえて身を置くのが
プラスかどうかも分かりません。
渋野は言葉も通じない見知らぬ土地から土地へと
渡り歩くツアー生活を耐え忍ぶより、
日本での戦いを選択すると公表しています。
男子のように、米ツアーと日本の賞金に
10倍近い格差が生じていて、
世界レベルの選手と日本でラウンドする機会が
滅多なことではあり得ないような状況であれば、
世界に通用する選手になるためには
米ツアー入りを目指すべでしょう。
日本女子ツアーは、世界レベルの選手を
多々輩出してきました。
それに続けとばかりに有望なゴルファーが
次々と現れています。
この20年で30ものメジャー優勝を獲得し、
ゴルフ大国となった韓国からも有望な若手が参戦し、
申ジエのような世界レベルの選手とも
戦えるフィールドなのです。
渋野が42年間のジンクスを打ち破ったことで、
堰を切ったように「日本人メジャー優勝者」が
現れることに期待しましょう。