ゴルフクラブの欠陥
ゴルフクラブの欠陥部分である「重心距離」を、ヘッドデザインで誤魔化すことができないかと
メーカーは考えています、それゆえのコンポジットであり、新素材、新スペックです
現在ウッドヘッドの製作ラインはコストの安い大陸で生産し、
台湾にはヘッドオフィスだけ残っていますが、1990年代まではほとんどの製作ラインが高雄に あり、
2000年前後から少しずつ大陸にシフトしました、
ちょうど私が韓国のメーカーの依頼でヘッドデザインを始めた時期でした。
日本の今一番売れている シャフトメーカーの紹介で3社の工場に行ったのですが、
驚いたことに高雄のどこの工場にも日本語の達者なスタッフがおり、
打ち合わせ後製作ラインを見学し ました、。この工場も熱せられた金属の熱気と、
そうでなくても暑い高雄の気候と相まって異様な暑さだったことを覚えていますが、
ヘッドの形になっていく工 程を追っていくと知っているブランドの新製品ばかりで
以前から各メーカーが独自の工場で、独自の技術でヘッドを作っていないことは知っていましたが
、ここ までだとは大変驚き、逆にメーカーの発想では作らないものを
自分のデザインで作りたいと思ったのです、しかしそれからクラブになるまでが大変でした。
私がプレーヤーとしてゴルフをしていた頃は、パーシモンヘッドの文字通りウ
ッドクラブで長さは43インチでしたので、交通事故後10年近いブランクの後、
いきなりその当時流行の45〜46インチは非常に構え難く、
プッシュアウトかひっかけという状態でした、当時のシャフトにも原因があることは
後で気がつい たのですが、まずヘッドを大きくすることでミート率が上がるであろうと考え
どこまで大きく出来るか作ってもらうことにしました、とりあえず作って問題点は
後から修正をしていく方法を取りました、そして2001年に発売したのが
Miracle500、Miracle450です。
当時のボリュームは300cc時代で業界では「いったい誰が使うの」と酷評でしたが、
しかし今となってはタイガーも使う大きさです、ゴルフルールで規定されるほど話題になり
私の考えは間違いでなかったと思います。
クラブを人間の腕にたとえると「ヘッド=手」で、「シャフト=筋肉」です、メーカーは
「手」の大きさや「形」「新素材」にお金をかけ開発し
「筋肉」はOEM生産のシャフト屋さんまかせです。
ミラクルのテストで大型ヘッドは「重心距離」のためにいきなり右に飛ぶことが多く、
私はシャフトで問題解決をしたいと思い、先輩の有名なクラブデザイナー に
ヘッドを見てもらいました「すごいねー、これだとトルクが5から6ぐらい
大きくないとつかまらないんじゃないの」といわれ、しばらくシャフト談義をした のを覚えています。
私の考えは大型ヘッドのほうがアドレス時に安心感があり、クラブが短く感じる、
さらに大型ヘッドを短く組むことでミート率が上がる、しかし「重心距離」のために
トルクの大きいシャフトだと軸回り慣性モーメントのために、
戻す力より開こうとする力のほうが強く働きフェースは開きやすく、
タイミングが合いにいと思っていました、しかしそのデザイナーは
長尺支持者で有名な方です。
47インチのドライバーをシャフトのトルクで戻そうと考えていたようで話は平行線で した。
当時日本では大型ヘッド用に私の探していたロートルク、ダブルキックのシャフトが無く、
韓国の日本のOEM専門シャフトメーカーに依頼して作りました、
完 成まで半年以上の試作期間が必要で大変お金がかかりました。
2003年にグラファロイから「大型ヘッド用ロートルクシャフト」として「ブルー」が発売さ れ、
他のメーカーも追従しスペックも豊富になり現在は作らなくても良くなりました。
最近メーカーは発想が尽きたのかまた長尺化に走り出しそうです、
以前は ビッグバットのグリップが太くなるシャフト中心でした、
しかし今はシャフト屋さんの努力により長尺で組んでもバランスの良いシャフトがあります。
メーカーと契約しているプロゴルファーは、メーカーから渡されるヘッドの中から
構えやすいヘッドを選びますが、シャフトは標準装着のものは使いません。
OEMでシャフトを供給している会社のプロトタイプやアフターマーケットシャフトを挿します、
自分のイメージ通りの弾道はシャフトを換えることによって可 能だということを知っているからです。
コピー合戦
日本のゴルフクラブの大手メーカーはダンロップ、ブリジストン、
ミズノ、ダイワ、ヤマハ、ヨネックスなどです。
これらのメーカーの製造、販売の仕方は自動車メーカーの製造販売の手法と似ています。
トヨタ、ホンダ、日産、ミツビシなどの日本メーカーと
フォード、ベン ツ、リンカーン各社のモデルを比較すると、
性能は酷似しており、価格とデザイン、広告の良し悪しが選択条件になっています。
競合他社の性能をコピーして、 ユーザーに同程度、同品質の車を供給する販売体制が解かります。
ゴルフクラブの場合は、まず競合他社の人気商品をコピーすることからはじめるのですが、
自動車メーカーと大きく異なるのは、自社の技術で自社工場での製品生産をしていない点です、
メーカー自体に製品開発するための技術力を高め良い製品を作ろうという
熱意が不足しているように思います。
中国でのOEM生産依存により、メーカー自体に製品開発をする技術力が必要無くなりました。
最近は3Dキャド システムでシュミレーションしながらヘッドのデザインが出来、
何時間か後には樹脂で作った実物大模型が出来上がるようになっており、
ゴルフの腕前もたいし たことがない技術者が、数字の帳尻あわせの理論武装図面を
メールで中国の工場に送れば新製品が完成するわけです。
1970年代から1980年代の大手メーカーの商品開発は試作品(プロトタイプ)を製造し
プロゴルファーによるヒューマンテストをして、機械で計測しながら修正を繰り返して
商品化するという非常にコストのかかる商品開発プロセスを踏んでいたのです。
今もそうしなければ完成度の高い商品は出来ないはずですが、
コストダウンのため工程を省くことが重要視され、ヒューマンテストはロボットテストに変わり、
コンピューターシュミレーションのデータがクラブを作る時代になりました。
皆さんにまず理解していただきたいのは「ゴルフクラブは欠陥品」であるということです。
最大の欠陥は重心がシャフトの延長線上にないことです、
左手でクラブをグリップしヘッドを顔の高さに持ち上げフェースを目標に向け、
右手の指先でシャフトの真ん中あたりを支え左手の力を緩めて
手を開くとフェースが開く方向にヘッドは回転します。
シャフトの軸線から重心までの距離を「重心距離」といいますが
シャフト軸線と重心がずれているためクラブを振ったときに、
重心の方向に動こうとする力が働きフェースが開くのです。
ほとんどの方が初めてクラブを振るとスライスするのは「重心距離」のせいです。
「欠陥」をごまかすためにライ角をアップライトに、フェース角をクローズにして
帳尻合わせをしたクラブが最近目立ちます。
両足を固定した状態で、感情もな く、プレッシャーも感じないロボットなら
コンピューターのシュミレーション通りの結果を出すでしょう、
メーカーは「本日一番ショット用」クラブを作り、最 新テクノロジーを駆使し、
最新素材を生かした高性能クラブと雑誌ぐるみで宣伝し販売します。
人間には感情があり「構えにくい」「振りにくい」と感じると
コンピューターのデータのような結果にはならないものです。
1995年に発売された52機種のドライバーの平均スペック
体積 230cc ライ角 55.8度 重心距離 35.9㎜ 重心深度 34.2㎜ 重心角 20.5度
2005年に発売された98機種のドライバーの平均スペック
体積 413.5ccライ角 59.4度 重心距離 37.9㎜ 重心深度 36.4㎜ 重心角 20.7度
以上のデータから体積は倍近く大きくなり、重心距離が2㎜長くなり、
ライ角が4度近くアップライトになっているのが解かります、
開きやすいフェースを閉じ るようなごまかしを「お助け機能」と宣伝しているメーカーもありますが
「当社のクラブは欠陥品」などとは、決して宣伝できないのです。