魔法のクラブ?
テーラーメイドからR7に継ぐR9のドライバー、フェアウェイウッドが今春発売されます。「R9・420cc」「R9 MAX・460cc」が4月発売予定で6月には「R9 ・TP」が発売予定です。最大のポイントはフライトコントロール・テクノロジー(FCT)というシステムです。ナイキゴルフも同様のコンセプトでクラブ ヘッドポジションを8通りに調節できるSTR8-FITシステムを搭載したドライバー、SQ DYMOを発表しました。どちらも一本のクラブで様々なクラブに変えることのできる[魔法のクラブ]とのことです。
共にロフト角、ライ角、フェース角までを調整可能にする技術で、テーラーメイドR9の場合R7にも採用されていたMWT(ムーバブルウェイトテクノロ ジー)と相乗効果により1本のクラブで24通りの弾道の調整を可能にできるとのことです。「R9 ・FCT」システムの特徴は、専用レンチを使用してクラブヘッドからシャフトを抜き、その挿し方によって最大8種類のヘッドポジションをセッティングでき るわけですが、左右最大約75ヤードの可変幅を可能にしているというセールストークでした。
STR8-FITを搭載したSQ DYMOストレートフィットドライバーの特徴は、ショットシェイプ用ツールキットで、可動式ウェイトも予備のシャフトセットも使わずに、ホーゼルに組み込 まれたシンプルなSTR8-FIT(ストレートフィット)シャフトアダプターだけで、8通りのヘッドポジションから、ゴルファーにとって最大の飛距離を実 現するための、最適な選択を可能にできる説明しています。
しかしそれはパソコン画面上のシュミレーションやスイングロボットのデータによるもので、ゴルファーが実際に打った場合、そこまで弾道に差が出るのかは疑問です。
構えた時の顔のイメージや、自分のスイングに合ったセッティングなど、ゴルファーの要求は上級者になるほど繊細な部分が多いものです。
アマチュアゴルファーがこのクラブを使いこなすには、何ページもの取扱説明書か経験豊富なクラブフィッターのアドバイスが不可欠だと思います。いろいろ角度を変えているうちに、何が良いのか分からなくなってしまうゴルファーがほとんどではないかと思います。
アメリカでも日本でも、メーカーがクラブのフィッティングに重きを置くのはいいことです、しかしこれはあくまでセミオーダー的な、シャフト・グリップの選択が可能なだけであって、ヘッドの選択余地は自社の完成済みヘッドに限られているのが現状です。
個人対応のカスタムオーダーは、一番やりたくない販売方法というのが大手メーカーの本音ではないでしょうか。大手メーカーはテレビや雑誌で大げさなセール ストークで宣伝したクラブが、陳列するだけで売れてしまうことを望んでいるはずです、そのために莫大な広告宣伝費をつぎ込んできたのです。
現在市販されているほとんどのクラブはフェースが左を向いています。スライサー向けにインパクトでスクエアになるように計算しているのでしょう。
アイアンの場合は飛距離を伸ばすためにロフト立て、左を向けることで引っかかりながら結果として飛距離が伸びるモデルばかりです。しかし普通に考えたら左 を向いているクラブで真っ直ぐ飛ぶのはおかしいのではないでしょうか。ゴルファーはクラブに合わせて、自分の身体の動きで対応しているだけなのです。ボー ルを中に入れたり、肘を抜いたりして、皆さん器用に打っていますがイメージ通りのナイスショットは全部左に引っかかることになります。
メーカーの過剰な「理論武装」サービスは迷惑になることの方が多いものです、スライス防止機能や飛距離アップ等の「去年より進化した理屈」を付け足して、 売ったら売りっぱなしというのがゴルフ業界です。少しでも売れれば、他社もすぐに同じようなコンセプトの製品を発売します。大枚をはたいて買ったゴル ファーは使いこなせないうちに、また新しい「理論武装」の新製品に飛びつきます。フィッティングとは理想の弾道を打ちやすくする「クラブ調整」と、「その ためのスイング」の二つのファクターを同時進行で調整していく必要があり、ネックを変えただけで理想の弾道になるということは絶対にありません。
スペックを数値化すると、ある程度のことは分かります。一本のシャフトでもいろいろな使い方があり、セッティング次第で色んな性格が現れます。それを知る ためには自分で試すしかないのです。クラブをどう組みなおせばどんなミスに対応できるのかを知り、さらにスイングでのチェックポイントと2本立てで取り組 まないと、なかなかレベルアップは期待できません。
コースでラウンドしやすいように調整することがフィッティングの目的です、14本を如何に揃えるかですが、バックに一本だけ異質のクラブが紛れ込んだ場合 「想定外の結果」が起こった時が大変です。見慣れたオーソドックスな形状ではなく、ネックを無理に曲げたヘッドは構えにくいはずです。何発も打てる練習場 なら慣れで修正できるでしょうが、コースでは一発のミスショットですべてを否定された気分に陥るものです。
不安な精神状態+構えにくいヘッドという状況は、ボールポジションのズレやセットアップのズレを生み「練習場では打てるのにコースでは当たらない」という ことになり結果としてスイングを壊す、スランプ状態に陥ります。アイアンのライ角調整もただ曲げるのではなくセットとして構えやすくなるよう曲げなくては 意味がありません。
ショップで買ったクラブをそのまま使うのではなく、自分の感性に合ったシャフトにリシャフトしてセッティングする程度の、クラブに対するこだわりを持って 欲しいと思います。こだわりを持つことでゴルフクラブへの知識も広がり、ゴルフがより楽しいものになります。さらにスイングを作り直せばゴルフのレベルも 上がります。
私の経験では90%以上の人がとんでもない向きのクラブを使って「真っ直ぐ飛ばそう」と努力しています。フックフェースのクラブを使っているゴルファーに 「正しいスイング」を教えたらフックしか出なくなります。遠く・真っ直ぐに飛ばしたくてレッスンに来るわけですから、まず「クラブを真っ直ぐ飛ぶようにす ることが重要」だということを理解してもらうようにしています。
ジャパンゴルフフェア
2月20日から22日まで開催された「ジャパンゴルフフェア」に行ってきました。
リーマンショックから津波のように世界を駆け抜けていった金融恐慌により、フロリダオーランドで開かれた「PGAショー」の評判を聞くと「ここ数年アパレ ルのブースばかりが目立ち、本来のゴルフクラブや練習器具の商談会とは違う方向性に向かっていて、楽しくなくなった」ということでした。
PGAショーの不参加組みはテーラーメイドとナイキで(ウェアは出展)来年以降の参加も微妙なようです。長らく欠場していたピンとアクシネットは最大規模のブースで復帰したものの、常連のゴルフスミスや、かつて最大規模のブースを誇ったウィルソンも姿を消しました。
話題になったアクシネットは、なぜ8年ぶりに復帰したのでしょうか?キャロウェイとの特許紛争で敗れ、「新プロV1」の発売を余儀なくされ、大々的にプロ モーションする必要があったのでしょう。ピンは7年ぶりに復帰しましたが創業50周年の功績をアピールしたいがための復帰で、来年の参加は?だといわれて います。
昨年のPGAショーで「行過ぎた異形ヘッド」を売り込もうとした多くのメーカーは、ゴルファーの支持を得られませんでした。私が大型ヘッド Miracle(460〜560cc)を販売した2000年当時は、ヘッドを大きくすることのメリットに注目して設計、販売をしていました。
構えた時の違和感をなくすために、なるべくそれまでの形状を保って大きくすることに取り組んだのですが、決して長尺にはしませんでした。大きくすることで 慣性モーメントが高くなったヘッドを、短く組むことでミート率が上がり、結果として曲がらず飛んだのです。当時は1986年にプロギアがパーシモンヘッド より軽量のカーボンヘッドの長尺クラブを発売し「長ければ長いほど飛ぶ」という風潮があった時代でしたが、私は長尺反対論者でした。長尺に組むにはヘッド を180g台に軽くし、シャフトを50g以下にして総重量を280g台にする必要があったのです。しかし当時のカーボンシャフトは50g前後まで軽くする と肉厚が薄くなり、頼りないものばかりでした。芯に当たればいいのですが芯を外れたショットの行方は悲惨なものでした。
それ以前のパーシモン・スチールシャフト時代は、ヘッド200g+シャフト120g+グリップ50g=370g以上で、長くするとバランスが重くなり振り 切れませんでした。無理やり振ってもヘッドスピードが上がらず飛距離が伸びなかったので「43.5インチが限界」と言われていたのです。
現在のドライバーのヘッド重量は、パーシモン時代と同じ200gを越えているモデルが多くなってきています。
アイアンにも同じことが言えるのですが重い鎌で草を刈るほうが、軽い鎌で刈るより重さを利用してきれいに刈れます。ヘッド重量が重いほうが当たり負けしな いのですが、重すぎると振り遅れることになります。自分に合った気持ちよく振り切れるスペックを見つけるには、いろいろな長さ・重さを試すことが第一歩で す。意外に知られていませんが、グリップを抜いてシャフトをカットしたり伸ばしたりするのは難しいことではありません。同じドライバーを何度か組み替えて コースで試すことで、自分に合った長さ・バランスに調整してみることをお勧めします。
カーボンシャフトが1973年に登場してから、軽いカーボンヘッドが開発され長尺化が進むまで13年もかかっています。さらに軽くて硬い、チタン素材の登場で大型ヘッドが作れるようになったことで拍車がかかったのです。
カーボンシャフトの素材が多様化され2軸から4軸と進化し、現在のシャフトには長尺にしても振り遅れない復元性の高いシャフトも登場しています。現在、クラブの開発は行き着くところまで行き着き、新素材が出てこない限り「限界」に達していると思います。
今まではオイルショック時のカーボンシャフト、バブル崩壊時のチタンヘッドと景気が悪い時に登場した魅力的な新素材がゴルフ業界を救ってきました。
今回のジャパンゴルフフェアで感じたことはカラーグリップ、カラーシャフトさらにはカラーヘッドと、飛距離性能や方向性能とは無縁の「綺麗でかわいい」路線でした。
ボールにも同じ傾向が見られます、光沢のあるパールのおとなしめのカラーボールからビビットカラーまで登場し、昨年は白いボールより高い販売実績を残しました。
メーカーは昨今の長尺・異形ヘッドを選んだゴルファーが意外にも少なかったことにまだ気づいていないのでしょうか。異形ヘッドをいまだに追っているのが昨年スリクソンの傘下に入ったクリーブランドです。
SRIスポーツとのコラボでどのような新製品を発表するのか期待していましたが、まさかハイボアの流れのヘッドをゼクシオやスリクソンで発売するとは思っていませんでした。
価格帯、ターゲットのゴルファーに合わせての発売なのでしょうが、スリクソンGie、ゼクシオレボは、ハイボアのデザイナーの意見を取り入れたとしか思えません。
四角形のヘッドを発売していたキャロウェイの新製品レガシーエアロはオーソドックスな構えやすい形状に変わりました。タイトリスト909は発売以来、市場 シェアを二倍に伸ばしましたが使用プロのデービス・ラブⅢやアダム・スコットが使っているヘッドは3角ではなくオーソドックスなものです。試行錯誤を繰り 返したどり着いた先はオーソドックスな形状ということでしょう。
石川遼効果なのか?ヨネックスの新製品はアイアンもライ角がアップライトではなく、ドライバーの形状もやさしそうに感じました。
一番驚いたのがマルマンでした、異型ヘッドの生みの親ともいえるメーカーですが、発売されたコンダクターは日本人の体型に合っており、派手なオレンジのシャフトが気にならなければ以外に人気が出るかもしれません。